『大草原の小さな家』には心に響く数々のエピソードがありますが、その中の1つを紹介したいと思います。
『メアリーの失敗』とタイトルされたこの話。学校で奨学金の試験が行なわれることになり、しかも立派な辞書が賞品とあって、インガルス家の長女メアリーは大張り切り。貧しい家庭では到底買えないだろう辞書に奨学金。先生になりたいという夢を持つ心優しいメアリーにとっては、栄誉以上に家計を助けたいという思いもあるのでしょう。ところが、学校の先生に借りた歴史の本を、みんなが寝ている家の中では迷惑がかかるからと、夜中に納屋で読んでいるうちに過って火事を出してしまいます。父さんは留守中。一人で家族を守る母さんは、恐怖と怒りに我を忘れてメアリーに「試験は受けさせません」と怒鳴ってしまうのです。
自分の犯した事の重大さに打ちひしがれたメアリーは、すべての償いを自分だけの力で果たそうとします。一方の母さんは、自分が感情に任せて与えてしまった罰をとくべきか否かで悩みながら、殻に閉じこもってしまったようなメアリーを前に何も言い出せずに過ごしていました。火事でダメにしてしまった先生の本を内緒で買い戻すためにメアリーはアルバイトを始めます。学校の先生からは、「あなたは最有力候補よ、がんばってね」と期待され、もし試験を受けなければその信頼を裏切ることに苦しみ、受けようとすれば母さんの言いつけにそむくことになると悩みながら、家の手伝いとアルバイトでくたくたになりながらも夜遅くまで勉強を続けるメアリー。母さんに禁止されても、試験への想いを断ち切れないでいたからです。
「試験で一番を取ったら、母さんは喜んでくれるかしら」
メアリーが自分に内緒で試験を受けたこと知った母さん。けれども、メアリーは答案用紙に答えではなく、試験を受けることができない理由を書いたのでした。最後にメアリーが出した結論は、母さんの言いつけを守ることだったのです。憧れの辞書も、得られたかもしれない栄誉も、先生の落胆も、メアリーの優しい心を痛めました。町の人や先生から真実を聞かされて「厳しいことを言ってごめんなさい」と謝る母さんに泣きじゃくりながら抱きつくメアリー。ようやく償いは終ったのです。
火事に動転して、思わずその瞬間考え付いた罰は、あんなに試験勉強に張り切っていたメアリーにとってあまりに酷なものだったと気付いた母さん。たしかに、納屋の火事は最悪の場合財産だけでなくメアリーの命を奪っていたかもしれません。厳しく罰するべきです。それでも、怒りにまかせて言ってしまったことを後悔し、牧師に相談をしに行きますが、その場での二人の会話は私の想像を超えていました。言いすぎだったにせよ、償いは必要だというのです。「家庭も社会だ。一度与えた罰を撤回してしまったら、次も簡単に許してもらえると甘えさせてしまう」当たり前のようで、厳しい言葉でした。
子育てをしていると、子どもに、とびきりの罰を言い渡してしまうことがあります。でも、我に帰るとしょげている子どもがかわいそうになって、ものの数時間で前言を撤回してしまい、最後までそれを通したことはほとんどありませんでした。それは、二度と繰り返して欲しくないような重大な過ちを子どもが犯したことがなかったからと言い訳することもできますが、実は真に償うということを子どもに教え込むことができなかったともいえるのだ、と気付きました。子どもの辛そうな姿を見たくない、その自己満足な思いが時として心を曇らせてしまうかもしれない危うさを忘れていたのです。
何年も前に、保護司の方の話だったか、万引きをした子どもにどのように対処するかということを伺ったことがありました。ことは、ほんの数百円の盗みかもしれない。二度としませんと誓えばそれでいいのではないかという考えもある。けれども、その方は信念を持って「とことん自分の犯したことに向き合わせることが必要だ」と話されていました。言葉を変えれば、『痛みを伴わない償いは意味がない』ということだったと思います。
メアリーの償いは、まさに痛みの伴う償いでした。試験を受けたい、辞書が欲しい、母さんを喜ばせたい、先生を喜ばせたい、こうした少女らしい夢の一つ一つと自分が犯してしまった過ちとを比べながら毎日を過ごしたのです。試験の結果が発表された時(1等賞は上級の男子生徒でした)、ぽろぽろと涙をこぼすメアリー。今までひたすらに働き、勉強することで抑えに抑えていた悲しみがあふれ出てきた瞬間でした。でも、彼女は二度と同じ過ちを犯さないでしょう。その胸の痛みは忘れられないものでしょうから。
母さんは、メアリーが一人でそれほどのものを背負い込んだとは思わなかったのです。(親ってそういうことに気付かないものですよね)。もちろん、先生の本を買い戻すためにアルバイトをしていることも、最後まで悩みぬいていたことも。自分のたった一言がこんなにも大きな代償を与えてしまったことを悔やむと同時に、最後まで一人で耐え抜いたメアリーを誇らしくもいとおしく抱きしめる母さん。ラストシーンは一言で収めることはできません。心に残る素晴らしいシーンでした。
『償い』という言葉は、少し宗教的で、大仰に聞こえるかもしれません。ちなみにドラマの中ではpunishment 『罰』という言葉が頻繁に出てきて、償いにあたるcompensation はなかったかも。とはいえ、罰を自分の犯したことと切り離して考えることはできませんからイコール償うということになると思います。ただ、日本語のイメージでは『責任を取る』という感じでしょうか。
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